イップスは長らく「心の問題」「気の持ちよう」と片付けられがちだった。しかし、スポーツ心理学の分野では2000年代から本格的な実証研究が進み、2026年時点ではかなり明確な輪郭が見えてきている。複数の大学研究室と日本スポーツ心理学会の共同調査(競技者約1,200名を対象とした追跡研究)によれば、イップス発症者の約78%が発症前に「競技成績に対して完璧主義的な思考傾向を示していた」と報告されている。これは非発症グループの約31%と比較して圧倒的に高い数値だ。
ここで重要なのは、イップスは「技術が未熟な人」に起こるわけではないという点である。むしろ、長年にわたって高いパフォーマンスを維持してきた熟練者、周囲からの期待を一身に背負ってきた選手にこそ多い。公式発表資料や各種競技団体の報告を見ても、イップスによる競技離脱はアマチュアよりもプロ・トップアスリートの層で深刻だ。真面目で責任感が強く、自己管理を徹底してきた人ほど、ある日突然「自分の身体が自分の意思と乖離する」という恐怖に直面しやすい。