歴史を揺り動かした決定的な転換点は、今から1300年以上前、奈良時代に遡る。719年(養老3年)、ときの元正天皇によって発令された「右前着用の勅」だ。これは当時編纂されていた養老律令(衣服令)の一環として、すべての人々の衣服の衿合わせを「右前に統一せよ」と命じた法令である。
それまでの日本古代社会では、身分の高い人物が左前、庶民が右前を着るなど、階級や地域によってバラつきが存在していた。しかし、当時の先進国であった唐(中国)の思想では「右を尊び、左を下とする」という価値観や、貴人が右前に倣う礼法が導入されつつあった。元正天皇はこの律令によって国家の規律を整え、皇族から一般庶民に至るまで生きている人間はすべて「右前」で着物を着るよう制度化したのである。