指導部を瞬時に排除する戦略は魅力的な選択肢に見える一方で、極めて深刻な地政学的リスクを内包しています。その最たるものが激甚な報復リスクです。
最高指導者を失った国家や組織では、指揮系統のタガが外れることで現場指揮官の暴走を招き、核兵器や生物化学兵器など非対称兵器の制御不能な報復発射(デッドハンドシステム)を引き起こす危険性があります。また、権力の空白が生じることで過激派勢力が台頭し、内戦や地域の泥沼化を招いた事例は歴史上枚挙にいとまがありません。
さらに、軍事戦略と国際法の観点からも根深い対立が存在します。国家元首の殺害は国際法上の「暗殺の禁止」や国家主権の侵害に問われる可能性があり、実行国は自衛権の行使(差し迫った脅威の排除)を主張するものの、国際社会からの批判を完全に免れることは極めて困難です。合法的かつ正当な武力行使と違法なテロ的暗殺の境界線は常に曖昧であり、作戦決断には高度な法的・外交的判断が要求されます。