長年、帝銀事件で使われた毒薬は「シアン化カリウム(青酸カリ)」とされてきた。しかし、青酸カリであれば口にした瞬間に強烈な味覚異常と即死に近い反応を示すため、16人全員に二度目の薬を飲ませることは不可能に近い。法医学者たちの間では、投与後数分間の猶予を持って効果を発揮する「青酸ニトリル系」あるいは特殊な有機リン化合物だったのではないかという議論が絶えない。
2026年代以降、当時の被害者の解剖記録や遺留品のデータ、さらには新たに発見された軍の極秘文書を最新のデジタル解析技術で再検証する試みが進んでいる。AIを用いた毒性シミュレーションや、残留化学物質の成分比較分析により、市販の薬品では不可能な「遅効性毒薬」の組成が浮き彫りになりつつある。科学の進化が提示するデータは、素人である画家の平沢が個人で調合・入手できるような代物ではなかったことを強く示唆している。