通算150ヶ国を訪れ、31年半もの長きにわたって日曜朝のお茶の間を魅了し続けた『兼高かおる世界の旅』。一見すると優雅な旅の記録に思えるが、その制作の舞台裏は想像を絶するハードさだった。現在のように軽量なデジタルカメラやスマートフォンが存在しない昭和の時代、重厚な16ミリフィルム撮影機材を自ら手配し、厳しい撮影環境にも即座に対応する卓越したタフネスが求められたのである。
現場での取材秘話として語り継がれているのが、要人や文化人へのインタビューにおける徹底した事前準備と度胸だ。ジョン・F・ケネディ米大統領や画家のサルバドール・ダリといった歴史的人物と対峙した際も、決して臆することなく相手の懐へ自然体で飛び込み、素顔を引き出してみせた。最新の視点から彼女の先駆的生涯をひもとくと、単なる観光地の紹介にとどまらず、現地の人々の暮らしや社会構造に迫る質の高いドキュメンタリーとしての目線が早くから完成していたことに驚かされる。
過酷な移動スケジュールを物ともせず、常にパーフェクトな装いと気品ある笑顔でカメラの前に立ち続けた裏には、妥協を絶対に許さないプロフェッショナリズムがあった。世界を魅了した独自取材の全貌は、メディアの形が変化した現在も決して色あせることはない。