藤圭子の代名詞とも言える楽曲が『圭子の夢は夜ひらく』である。この曲で歌われる「十五、十六、十七と 私の人生暗かった」というフレーズは、単なるフィクションの歌詞ではない。
そこには、浪曲師の父・阿部幸男と三味線奏者の母・竹山藤子の背中を見ながら過ごした、実体験としての暗闇が重なり合っていた。世間の冷たさや貧困の苦しみを知り尽くした彼女だからこそ、歌詞の行間に凄まじいリアリティを宿すことができたのだ。
『圭子の夢は夜ひらく』は、それまでの歌謡曲の概念を根底から覆した。単なる流行歌ではなく、社会の陰に生きる人々の情念を代弁する怨歌として、演歌の歴史に太い爪痕を残したのである。