それから約30年後。1998年の冬、日本の音楽シーンは再び激震に見舞われる。わずか15歳の少女が放ったデビューシングル「Automatic/time will tell」は、それまでの邦楽の常識を根底から覆した。その少女こそが、宇多田ヒカルである。
R&Bのグルーヴを完璧に乗りこなす大人びたボーカル。しかし、その歌声の奥底に潜む「何か」に、当時の大人たちは既視感を覚えた。それは、かつて日本中を魅了した藤圭子の声が持っていた、あの独特の哀愁だった。遺伝子は嘘をつかない。最先端のニューヨークのサウンドを纏いながらも、彼女の歌声には確かに、昭和の夜を支配した母の血が流れていたのだ。