日本には古くから吉凶を告げる「予言獣(よげんじゅう)」と呼ばれる存在が数多く存在します。なかでも感染症流行期に脚光を浴びた「アマビエ」や、古代中国の神獣「白澤(はくたく)」は、件と比較される代表格です。
アマビエが海中から光り輝きながら現れる海棲の存在であるのに対し、件は農耕に密着した家畜(牛)から産み落とされる陸の怪異という明確な差異があります。また、アマビエは「病が流行ったら私の姿を写して人々に見せよ」と告げて去るのに対し、件はその場で予言を完遂して自らの命を散らすという劇的な悲劇性を帯びています。
白澤は万物の知識を持つ徳の高い聖獣ですが、件はより土俗的で、民衆の生活の根底にある不安や終末感から湧き出たリアリズムを持っています。不気味さと哀愁、そして護符としての神聖さを同時に併せ持つ点こそが、件ならではの独自性です。