柚子を丸ごと使った柚子酒の作り方で、なぜ苦味が出ないのか――その答えは、柑橘類特有の果皮構造と成分の溶出スピードの差にあります。柚子の皮は、香気成分リモネンを含む黄色の外皮「フラベド」と、苦味成分ナリンギンやリモニンを多く含む白いワタ状の内皮「アルベド」で構成されています。
包丁で柚子を輪切りや乱切りにして漬け込むと、切断面からアルベドがアルコールに直に触れ、細胞組織の破壊に伴って苦味成分が一気に酒中へ溶け出してしまいます。一方、柚子酒を丸ごと漬ける方法では、外皮のバリア機能が保たれているため、アルベドからの苦味の溶出が極めて緩やかになります。アルコール分子が外皮の油胞をゆっくりと通過し、芳醇な香り成分だけを先行して抽出できるため、エグみのないクリアな味わいが実現するのです。
ただし、完全な無加工のままでは浸透圧が働かず、果汁やエキスの抽出に数倍の時間がかかってしまいます。そこで不可欠となるのが、外皮の表面にだけ微細な刺激を与える竹串による穴あけ下処理です。白いワタの深部まで針先を突き刺さず、黄色い皮の表面をプチプチと数カ所突く程度に留めることで、苦味を遮断しながら果実内部のエキスとアルコールを効率よく循環させることが可能になります。