映画『真夏のオリオン』のタイトルにもなっている「オリオン」という言葉。天文学的にはオリオン座は冬を代表する星座ですが、実は8月上旬から中旬の未明(夜明け前)、東の水平線近くにわずかな時間だけその姿を現します。漆黒の深海で極限の酸素欠乏と戦い、敵駆逐艦からの爆雷攻撃に晒される潜水艦乗組員たちにとって、夜明け前の空に昇るオリオンは「生きて夜明けを迎えた証」であり、「生還への道標」そのものでした。
劇中で登場する手書きの楽譜には、言葉(歌詞)そのものは明記されていません。しかし、登場人物たちが口ずさみ、ハーモニカで奏でるそのメロディには、愛する人の無事を祈る志津子の心情が余すところなく込められています。歌詞が存在しないインストゥルメンタルでありながら、聴く者それぞれが「大切な人への想い」や「生き抜く決意」という言葉なき詩(うた)を心の中で補完する構造になっている点が、本作の音楽が持つ最大の魅力です。
一方で、映画のエンディングを飾る主題歌やイメージソングの歌詞においては、この「真夏のオリオン」が見守る切ない逢瀬と永遠の絆が、現代の言葉で情感豊かに表現されています。