映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』において、蜷川実花監督が最もキャスティングに頭を悩ませ、かつ決定打を確信したのが山崎富栄役でした。公式インタビューや当時の制作発表資料によると、蜷川監督は富栄役に「ただ可憐なだけでなく、太宰を呑み込んでしまうほどの凄みと芯の強さを持った若手実力派」を求めていたと明かしています。
白羽の矢が立った二階堂ふみは、脚本を読んだ段階でこの役に強烈に惹かれ、監督に対して「この役を演じられるなら、どんな過激な描写にも躊躇なく挑む」という趣旨の覚悟を伝えたと報じられています。10代の頃から国内外の映画祭で高い評価を得てきた彼女にとっても、太宰と玉川上水へ入水心中した実在の女性を演じることは、役者人生における重大なターニングポイントでした。
二階堂ふみ自身、当時の単独インタビューにおいて「富栄は単なる狂信的なストーカーではなく、戦争で夫を失い、自分の居場所と生きる意味を太宰という存在にすべて預けてしまった純粋すぎる女性」と語っています。蜷川監督が描く絢爛豪華な色彩世界の中で、彼女の内側から湧き出る生々しい情念が、作品の背骨を形作ることになりました。