「医者の不養生」とは、患者に対して健康指導や治療を行う立場の医師が、自分自身の健康管理をおろそかにして体を壊すことを意味します。転じて、専門知識や高い技能を持ちながら、自分自身の生活や身の回りのことにはそれを活かせていない状態を広く戒める言葉として使われてきました。
この表現の由来を辿ると、江戸時代の口語や通俗的な文学に行き当たります。当時から医師という職業は社会的地位が高く、養生法(健康法)の大家として頼りにされていましたが、実際には昼夜を問わぬ往診や研究に追われ、自らの体を壊す医師が少なくありませんでした。そうした現実を庶民がユーモアと皮肉を込めて観察した結果、「他人に養生を教える当人が、最も不養生である」という滑稽さが定着していったのです。
知識の有無と行動の実践が必ずしも一致しないという人間の弱さを、もっとも説得力のある象徴として切り取ったフレーズだと言えます。