医学的知識を誰よりも持っているはずの医師が、なぜ自らの健康悪化を見逃してしまうのか。心理学および組織行動論の観点から分析すると、3つの決定的な心理トラップが浮かび上がります。
1. 認知的過信と「素人診断」への抵抗感
医師は病気のメカニズムを熟知しているため、体に不調が生じた際に「この程度の数値ならまだ大丈夫」「一過性の疲労に過ぎない」と、自ら都合よく診断(バイアス)を下してしまう傾向があります。同僚や他の医師に相談することを「大げさだ」「恥ずかしい」と感じ、結果として一般患者よりも受診が遅れるケースが後を絶ちません。
2. 利他主義の過剰適応と「心理的防衛機制」
医療現場では「患者第一」が絶対の行動規範です。目の前で苦しむ患者を優先するあまり、自らの疲労や空腹、体調不良のサインを無意識に抑圧する心理的防衛機制(痛覚や疲労感の鈍麻化)が働きます。自分の限界を認識できないまま走り続けてしまう構造がここにあります。
3. 「自分は病気にならない」という全能感の錯覚
日々「病気の人を治療する側」に立ち続けていると、無意識のうちに「自分は病気を与える側(治す側)であり、病気にかかる側ではない」という認知の歪みが生じやすくなります。この全能感が、健康診断の数値を軽視させたり、不規則な食生活を放置させたりする引き金となります。