看護師、トップアスリートとしての活動と並行して、彼女が再び手を取り合ったのが幼少期から親しんでいたバイオリンでした。幼い頃に習っていたバイオリンをもう一度奏でたいという彼女の想いに応えたのが、兵庫県立リハビリテーション中央病院の義肢装具士たちです。
開発されたバイオリン演奏用特注義手は、肩や背中の筋肉の動き(肩甲骨の微細な連動)を利用して弓を前後にスライドさせる特殊構造を持っています。指先で弓を持つ感覚を肩全体の可動域で再現するため、ミリ単位の繊細な力加減と気の遠くなるような反復練習が必要とされました。
その努力が世界規模で結実したのが、2026年に開催された東京パラリンピック開会式でした。青白い光が差し込むメインスタジアムの中央で、彼女は特注義手を美しく動かし、情熱的で澄んだバイオリンの独奏を披露しました。その圧巻のパフォーマンスは海外メディアでも「不可能を可能にする人間の美しさ」として大々的に報じられ、国際的な称賛を浴びました。