医療費控除に関する最大の誤解のひとつが、「確定申告で提出しなくなったから、申告が終われば書類は捨てて良い」という思い込みです。国税庁の現行規定において、医療費の領収書や医療費明細書は確定申告期限の翌日から「5年間」の自宅保管義務が明確に課されています。
申告時に提出が免除されているのは、行政手続きのペーパーレス化と納税者の利便性向上のための措置に過ぎません。税務署は申告内容に不審な点や計算の食い違いを発見した場合、過去5年間に遡って原本の提示または提出を求める権限を有しています。もし求められた書類を紛失・廃棄によって提示できなければ、医療費控除の適用が取り消され、過少申告加算税や延滞税が課される事態に発展します。
ここで多くの人が頼りにするのが、健康保険組合から定期的に送られてくる「医療費のお知らせ(医療費通知)」です。健康保険組合の医療費通知の詳細まとめを確認すると、確かに所定の要件を満たした医療費通知を確定申告書に添付すれば、個別の明細書作成を省略できる特例が存在します。しかし、ここには2つの致命的な落とし穴が存在します。
第1の落とし穴は「タイムラグ問題」です。医療費通知に記載されるデータは、医療機関から審査支払機関を経由して健保組合に届くまでに通常2〜3ヶ月を要します。そのため、毎年1月中旬から2月に届く通知書には、前年11月や12月に受診した医療費が含まれていないケースが頻発します。この記載されていない直近受診分を申告するためには、手元にある紙の医療費明細書と領収書を使って別途手計算で集計しなければなりません。
第2の落とし穴は「自費診療の非掲載」です。保険診療外の治療(インプラント、レーシック手術、一部の先進医療など)は健康保険組合を介さないため、医療費通知には一切印字されません。高額になりがちな自費診療こそ医療費控除の恩恵が大きいにもかかわらず、通知書だけを過信して明細書を捨ててしまうと、控除の機会を自ら放棄することになります。