葉山御用邸が設置されたのは1894年(明治27年)のことです。当時、皇太子であられた嘉仁親王(後の大正天皇)は健康上の不安を抱えており、避寒と健康増進に適した保養地が急務となっていました。そこで候補地選定の決定打となったのが、東京大学医学部で教鞭を執っていたドイツ人医師エルヴィン・フォン・ベルツ博士の進言です。
ベルツ博士は、相模湾に面した葉山が冬暖かく夏涼しい海洋性気候であること、背後の山々が冷たい北風を遮り、清浄な潮風と自生する黒松林が呼吸器疾患の療養に極めて適している点を高く評価しました。当時の公的記録や関係文書によると、医師団の慎重な現地調査を経て正式に御料地として買い上げが進められ、初代本邸の竣工に至りました。
大正天皇の崩御(1926年)という近代史の重要局面を迎えた場所でもあり、昭和、平成、そして令和の現在に至るまで、天皇皇后両陛下をはじめとする皇族方のご静養先として変わらぬ信頼を集め続けています。単なる風光明媚な観光地ではなく、医学的知見に基づいた「癒やしと静養の聖地」として選定された歴史的根拠が存在します。