野際さんの女優人生の集大成となったのが、脚本家・倉本聰氏が手がけたテレビ朝日系の帯ドラマ『やすらぎの郷』(2017年4月〜9月放送)でした。往年の名俳優たちが集う老人ホームを舞台にしたこの作品で、野際さんは主人公のよき理解者である元人気女優・井深凉子役を演じました。
撮影が行われていた2017年初春、野際さんの体調はすでに限界に近づいていました。現場関係者の証言によると、楽屋には酸素濃縮装置が常備され、カットがかかると静かに呼吸を整える姿が見受けられたといいます。それでも、助監督から「本番いきます」と声がかかると、酸素チューブを外し、背筋をピンと伸ばして華やかな笑顔でスタジオへ歩みを進めていました。
2017年5月上旬、撮影の合間に体調が急変し、野際さんは緊急入院を余儀なくされます。制作陣は彼女の復帰を信じて台本を調整しながら撮影を継続しましたが、スタジオに戻ることは叶いませんでした。ドラマ内で彼女が演じたシーンの数々は、自らの命を削りながらカメラに刻み付けた、まさに魂の遺作となったのです。