レシピ作成者がミリグラム単位で厳密に指定せず、あえて「少々」という表現を用いるのには、素材の個性や調理環境に応じた塩分濃度調整の余地を残すという合理的な理由があります。
人間が美味しいと感じる料理の塩分濃度は、体液の浸透圧に近い約0.8%〜1.0%とされています。しかし、使用する野菜の水分量や肉の脂の乗り具合、一緒に使う醤油や味噌などの発酵調味料の塩度によって、最後に加えるべき塩の必要量はわずかに変化します。
さらに、塩には味をつける以外にも以下のような科学的役割があります。
・素材の脱水と臭み抜き:浸透圧を利用して魚や肉から余分なドリップを出す。
・食感の向上:キャベツやキュウリの細胞をしんなりさせ、歯ごたえを整える。
・発色と変色防止:青菜を茹でる際の色止めや、リンゴの褐変を防ぐ。
・タンパク質の凝固促進:卵焼きやオムレツのコシを切り、ふんわりと仕上げる。
これらの作用を引き出すためには、過剰な塩味をつけずに微量のナトリウムイオンを行き渡らせる「塩少々」の分量が極めて重要な役割を果たしています。