大浴場で他人と肩を並べ、視線のやり場に困る時間は、真の休息とは呼びにくい。この宿の真骨頂は、森の斜面にせり出すように設えられた4つの異なる貸切露天風呂にある。扉を開けると、そこには湯気越しに広がる原生林のパノラマだけが待っている。
浴槽に身を沈めると、かすかな硫黄の香りと湯の花が全身を包み込む。湯温は熱すぎず、じっくりと長湯ができる絶妙な加減だ。夜になれば木々の合間から星空がのぞき、秋には鮮やかな紅葉が頭上を覆う。時計を外し、スマートフォンを脱衣所に置いたまま、ただお湯が溢れ出る音に身を委ねる。これ以上のデジタルデトックスが他にあるだろうか。