休業損害の請求実務において、給与所得者だけでなく、パート・アルバイト、個人事業主、さらには主婦層に至るまで、それぞれ異なる算定ルールが厳格に適用されます。とりわけ誤解が蔓延しているのが「有給休暇を使った日の扱い」です。
「有休を使った日は給与が全額支払われているのだから、通院や静養で休んでも実害としての減収はなく、休業損害は請求できないのではないか」と自己完結してしまう被害者が後を絶ちません。しかし、これは明確な誤りです。有給休暇は、労働基準法第39条に基づき労働者に与えられた「本来なら自由に旅行や休養に使えるはずの法的権利(財産的価値)」です。事故の治療のために意図せず権利を消費させられた以上、最高裁判所の確立した判例実務においても、「有給休暇を使用した日は、欠勤して給与が減額された場合と同等の損害が生じた」と明確に認定されます。したがって、休業損害証明書上で「有」と記載された日についても、通常の欠勤日とまったく同じ日額単価が全額支払われます。
一方、パートやアルバイト、シフト制勤務者の計算式には特有の落とし穴が存在します。以下の表は、事故の補償算定で用いられる3つの基準(自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準)の差異を構造的に比較したものです。
パートやアルバイトの休業損害計算では、「割る日数」に最大の争点が生じます。保険会社は往々にして「直近3ヶ月の給与合計÷暦日数90日」で計算しようとします。しかし、週3日勤務などのシフトワーカーにおいて90日で割ってしまうと、1日あたりの基礎収入が極端に低くなってしまいます。そのため実務上は、「直近3ヶ月の給与合計÷実際の出勤日数」で日額単価を算出し、それに欠勤日数を乗じる主張を行うことで、正当な手取り水準を維持できます。
一方、雇用主が存在しない個人事業主やフリーランスの場合、休業損害証明書という書類自体が使えません。代わりに提出すべき決定的な証拠が「前年度の確定申告書控(税務署の受付印またはe-Taxの受信通知がある第一表・第二表)」および「青色申告決算書(または収支内訳書)」です。
個人事業主の休業損害基礎日額は、原則として「(前年の申告所得額+事業継続のために休業中も排他的に演繹して支払った固定費)÷365日」で導き出されます。事務所家賃、従業員給与、通信費、リース料などの固定費は、仕事を休んでいても容赦なく発生し続けるため、損害の一部として算入が認められるのが確立した裁判実務です。節税対策のために申告所得を極端に低く抑えていた個人事業主は、実収入の立証で激しい査定攻防に巻き込まれるため、日々の帳簿や取引先との契約書・請求書の保管が命綱となります。