この場所を語る上で外せないのが、その特異な空間構造だ。
雑居ビルの一角、目立つ看板もなければ案内もない。訪れた者はまず、大人が直立したままでは通れない小さな扉の前で立ち止まる。頭を下げ、身体を小さく折り曲げて中へと滑り込む構造は、かつて千利休が茶室に施した「躙り口(にじりぐち)」そのものだ。どんな肩書きを持つ者も、ここでは一度身をかがめ、社会的な鎧を脱ぎ捨てなければ中へ入れない。
一歩足を踏み入れると、外のミナミの喧騒が嘘のように吸い込まれていく。黒を基調としたミニマルかつ退廃的な美学。古材のカウンター、鈍く光る真鍮のツール、計算し尽くされた陰影。明と暗、日常と非日常の境界線をこれほど鮮烈に引いてみせる空間は、日本中を探しても稀だろう。