この問題を正しく理解するためには、日本の公的年金制度における「原則受給」と「繰下げ受給」の仕組みを把握しておく必要があります。
現在、公的年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)を受け取る権利が発生する原則の受給開始年齢は65歳です。そのうえで、個人の希望によって受け取り時期を前後に変更できる制度が整えられています。
受け取りを早める「繰上げ受給」は60歳から選択でき、逆に受け取りを遅らせる「繰下げ受給」を選択すると、1か月遅らせるごとに受給額が月0.7%(年間8.4%)増額されます。法改正によって繰下げ受給の上限は従来の70歳から75歳まで拡大されており、仮に75歳まで繰り下げた場合は受給額が最大84%増額される仕組みです。
小泉氏が提唱した改革案は、この繰下げ可能な上限年齢を「75歳からさらに80歳まで引き伸ばす選択肢を作ってはどうか」という構想でした。つまり、「65歳でもらえる権利を奪う」のではなく、「健康で働き続けられる人が、より多くの年金をもらうために80歳まで遅らせる選択肢を増やす」という趣旨だったのです。