本作を語る上で欠かせないのが、小泉今日子と中井貴一による洗練された掛け合いだ。鎌倉の隣同士の古民家に住むふたりの会話は、まるでジャズの即興演奏を聞いているかのような心地よいテンポ感で進む。制作関係者によると、ふたりの台詞のやり取りはリハーサルの段階からほぼ完成されており、監督からの指示を最小限に抑えるほど息がぴったりだったという。
特に印象的なカフェ「長倉」の敷地や自宅前での喧嘩シーン。一見すると激しい言い合いでありながら、互いへの深い敬意と愛着が滲み出るあの大人の距離感は、ふたりの卓越した演技力と長年の信頼関係があったからこそ生まれた奇跡的な空間だった。クランクイン前から綿密なディスカッションを重ね、単なる「おじさんとおばさんの恋」ではなく「成熟した人間同士の友情と恋の狭間」を緻密に構築していったエピソードは、今なお語り継がれている。