本作が放送されてから年月が経過した今もなお、多くの視聴者の心をつかんで離さないのはなぜだろうか。その理由は、徹底的に削ぎ落とされたシンプルさと、細部にまで宿る「丁寧な暮らし」の描写にある。
出版社を突然辞め、亡き母が遺した食堂を自分好みの店へとリニューアルさせたアキコ。彼女が提供するのは、その日に作った新鮮なパンのサンドイッチと、じっくり煮込んだスープのみだ。決まりきったメニューではなく、自分の手で選んだ食材と向き合い、納得のいくものだけをお客に届ける。その潔い生き方に、現代を生きる私たちは深い共感と密かな憧れを抱く。
ふらりと現れた一匹の野良猫「シマ」との距離感も絶妙だ。媚びることもなく、縛ることもない。お互いの存在を静かに尊重し合う姿は、人間関係の理想形そのものと言えるだろう。日本ドラマの中でも、これほど優しく観客の自律心を励ましてくれる作品は稀有だ。