ふたりの出会いは2006年。夏木マリが自身の音楽活動として立ち上げたバンド「GIBIER du MARI(ジビエ・ド・マリ)」のメンバーとして斉藤ノヴが参加したことがすべての始まりだった。当時すでに音楽業界の第一線でグルーヴを紡ぎ出していたパーカッション奏者と、女優として圧倒的なオーラを放っていた表現者。リハーサル室で交わされた音の対話は、即座に魂の共鳴へと変わった。
交際がスタートした当初、ふたりは婚姻届を出さない事実婚、いわゆる「フランス婚」というスタイルを選択した。「結婚という紙切れ一枚の契約に縛られる必要はない」「好きだから一緒にいる、それだけで十分」。互いに自立した大人だからこその選択は、当時の日本社会に新鮮なインパクトを与えた。
しかし、そのスタンスに転機が訪れる。2011年3月に発生した東日本大震災だ。未曾有の危機に直面したとき、ふたりは「何が起きても最後まで責任を持ち合う」という覚悟を行動で示す決意を固めた。同年の5月、夏木マリが59歳、斉藤ノヴが60歳のタイミングで正式に入籍。「何かあったときに家族として一番に駆けつけられるように」――その理由は、単なる手続きではなく、互いへの深い敬意と連帯の証明だった。