昭和の映画界において、夏目雅子という存在は独特の輝きを放っていた。彼女が本作で演じた中井駒子役は、単なるヒロインの枠を遥かに超えている。戦争によって夫を失い、自身も深い傷を負いながら、教え子である子どもたちとともに野球を通じて立ち上がろうとする強靭さと優しさ。それは、彼女自身の儚くも芯のある生き様と深く重なり合っていた。
現場での夏目は、決して妥協を許さない真摯な姿勢で役に臨んでいたという。真夏の淡路島ロケで行われた撮影現場では、過酷な日差しの中でも一切の嫌な顔を見せず、劇中の子どもたちと自然体で接していた。子どもたちがカメラを忘れて無邪気に笑う姿を引き出せたのは、夏目が放つ陽だまりのような温かさがあったからこそだ。彼女が残した「駒子先生」の眼差しは、観客の心に昭和映画が持っていた温もりの記憶を永遠に焼き付けた。