下呂温泉の温泉街から少し坂を上った場所で開かれるこの朝市が、多くの観光客に選ばれ続けている最大の理由は、過度な商業主義に染まらない「生産者との直接対話」と「圧倒的な鮮度の郷土食材」にあります。
一般的な温泉街の大型土産物店では、パッケージ化された画一的なお菓子が中心になりがちです。しかし、下呂温泉合掌村前広場で開催されるいでゆ朝市に並ぶのは、地元農家が丹精込めて育てた野菜や、昔ながらの製法で作られたあかかぶ漬、飛騨の清らかな水で仕込まれた地酒、無添加のトマトジュースといった本物の味覚ばかり覚えます。
現地で長年店を構える出店者は、取材に対して次のように話します。「観光バスで立ち寄ってパッと買って帰る場所ではなく、一つひとつの漬物の漬かり具合や、今年の山菜の出来栄えを世間話交じりに説明する時間そのものを楽しんでもらいたい」。この言葉通り、店頭での何気ないやり取りや試食を通じ、作り手の温もりを感じられる体験こそが、デジタル社会に生きる都市部の旅行者の心を強く打っている背景があります。