「役を作るんじゃない。役に自分が喰い込まれ、役が自分に擦り寄ってくるのを待つんだよ」
静かな語り口の中に、長年の芸歴に裏打ちされた確信が滲む。「ニン」とは単なる「ハマり役」という意味にとどまらない。どれほど巧みにセリフを回し、完璧な表情を作ろうとも、演者自身の生き様や人柄が役に透けて見えなければ、観客の心に本当の波紋を起こすことはできないのだと彼は強調する。
役を引き寄せる極意として明かされたのは、「自分を消す努力」と「滲み出る個性の受容」という相反する要素の同居である。無理に役を演じようと力むのではなく、役柄が求める空間に自らの身体を漂わせる。その自然体こそが、役に「ニン」を吹き込む唯一の方法なのだという。