物語の舞台は、すべてが完璧に統制された豊かな王国。主人公である王様は、国中の富と領土、国民からの敬意を一身に集め、何一つ不自由のない暮らしを送っていました。しかしある朝、王様は自らの胸の中に「耐えがたい欠落感」を覚えます。王冠も宝物もすべて揃っているにもかかわらず、人生で最も大切だったはずの「あるもの」をどこかに置き忘れてきてしまったことに気づくのです。
王様は側近たちを総動員し、城中や領土の隅々まで「わすれもの」を捜索させます。ある者は「失われた黄金の鍵ではないか」と言い、別の者は「若き日の栄光の記録ではないか」と推測しますが、どれも王様の心の隙間を埋めることはできません。焦燥感を募らせた王様は、身分を隠して城を抜け出し、名もなき市井の街や荒野を旅する決断を下します。
旅の途上で王様が出会ったのは、日々のパンを分かち合う貧しくも笑い声の絶えない家族、道端の小さな名もなき花に涙を流す老人、そして誰のためでもなく歌を口ずさむ子供たちでした。王様は彼らとの対話を通じて、自分が権力や義務と引き換えに置き去りにしてきた感情の存在を突きつけられます。
結末の核心において、王様が最後にたどり着いたのは、自身が即位する前、無邪気に友人と夢を語り合っていた小さな丘の上の古木の下でした。そこで王様が見つけ出した「わすれもの」とは、物質的な宝物ではなく、「傷つくことを恐れずに誰かを心から信じ、愛する無垢な心」そのものだったのです。
ラストシーンでは、王様は豪奢な王冠を外して静かに木漏れ日を見上げます。完璧な君主としての仮面を脱ぎ捨て、一人の不完全な人間として生きていく決意を固めた王様の穏やかな微笑みとともに物語は幕を閉じます。この結末は、効率と成果を求められ続ける現代を生きる多くの読者に、強烈なカタルシスと救いを与えています。