「波形が綺麗に出ているのに、呼びかけに反応しない。頸動脈を触知した指先に何の拍動も伝わってこないときのあの冷たい感覚は、何年経っても忘れられません」
大学病院の循環器集中治療室(CCU)に勤務するベテラン看護師は、緊迫した急変時の瞬間をそう振り返ります。モニターのスピーカーから鳴り響くけたたましいアラーム音、ベッドサイドに集まる医療チーム。無脈性心室頻拍の現場は、1秒の判断ミスが患者の死に直結する極限状態です。
救命処置を率いるリーダー、胸骨圧迫を交代で行うスタッフ、除細動器を操作する医師と並び、現場で命運を握る重要な役割が「記録・タイムキーパー係」です。無脈性心室頻拍の苏生現場における看護記録と観察項目には、極めてシビアな精度が求められます。
急変時に克明に記録・追跡すべきコア項目は以下の要素です。
1. 正確な時刻の管理(秒単位のタイムライン)
急変発見時刻、胸骨圧迫開始時刻、除細動パッド装着時刻、通電が行われた正確な時刻を漏れなく記録します。2分ごとのリズムチェックのタイミングをチーム全体へ明確にコールする役割を担います。
2. 除細動の出力エネルギーと回数
二相性除細動器であれば機器推奨の初回エネルギー量(例:150J〜200J)で通電されたか、ショック前後の波形変化がどう推移したかを記録します。
3. 投与薬剤の用量とルート、投与時刻
後述するアドレナリンやアミオダロンが投与基準に合致したタイミングで静注されたか、生食によるフラッシュが確実に行われたかを記録します。
4. 患者の生体反応と観察項目の推移
瞳孔径および対光反射の有無、自発呼吸の出現、胸郭の上がり具合、末梢冷感やチアノーゼの消長を観察します。さらに、蘇生処置中に「カプノグラフィ(呼気終末二酸化炭素分圧:EtCO2)」をモニタリングしている場合、その数値の推移は決定的です。胸骨圧迫中にEtCO2が10mmHg未満であれば圧迫の質を再確認する必要があり、突然35〜40mmHg以上へ跳ね上がった場合は、自己心拍再開(ROSC)を強く示唆する重要な生体サインとなります。
救急医療の現場において、質の高い記録は単なる事後報告のためではありません。混乱を極める蘇生現場において「今、何サイクル目のCPRが行われ、直近の薬剤投与から何分が経過しているのか」を冷静にリーダーへフィードバックし、不要な中断や過剰投与を防ぐための司令塔としての機能を果たしています。