日本の重工業・電機産業が世界市場で激しい競争に晒されていた時代、土光の手腕は民間企業の現場で遺憾なく発揮された。経営危機に陥っていたIHI(石川島播磨重工業)を見事に立て直し、続いて巨額赤字に沈みかけていた株式会社東芝のトップへと招聘される。彼が最初に着手したのは、本社の分厚い壁に守られた役員室の解体だった。
「社長室のドアを外せ」「書類の決裁を待つ暇があるなら現場へ行け」。机上の空論を徹底的に嫌い、作業着を着て工場を歩き回り、工員たちと汗を流しながら対話を重ねた。現場のリアルな課題を瞬時に吸い上げ、官僚的な手続きを一切排除して即決する。この徹底した合理化と現場への信頼こそが、巨大企業の硬直した風土を根底から覚醒させたのである。