歌舞伎の家に嫁ぐことの過酷さは、一般の想像をはるかに超えます。年中無休で続く公演、贔屓筋への細やかな挨拶、着物の手配から弟子たちの体調管理に至るまで、求められる気配りは果てしありません。しかし、瓔子さんにとってその環境は決して未知の世界ではありませんでした。
偉大な名優・中村吉右衛門 (2代目)の四女として育った彼女は、幼い頃から伝統芸能の厳しさと美しさを肌で感じ取ってきたサラブレッドです。父の背中を見て育ち、劇場の空気感を誰よりも熟知しているからこそ、夫が芸に没頭できる完璧な環境を整えることができます。周囲の関係者が「彼女ほど歌舞伎の呼吸を自然に理解できる人はいない」と口を揃えるのも当然の帰結といえます。