吉本泰三という男は、経営者としては破天荒すぎたが、芸を見る目と人たらしの才能においては天才的だった。一方、妻の吉本せいは冷徹なまでに数字と客の動向を弾く「金庫番」であり、「プロデューサー」でもあった。この二人三脚こそが、吉本興業の原点だ。
当時の大阪落語界は老舗の権力団体が牛耳る固い世界。新参者の吉本夫妻は、良質な落語家を回してもらえないという手酷い嫌がらせに直面する。そこで彼女たちが打ち出した作戦が、安価な木戸銭(入場料)と、安来節や漫才といった「誰もが気兼ねなく笑える大衆演芸」の積極採用だった。敷居を下げて客数を稼ぐ。この薄利多売のアイデアが、働く大阪の庶民の心を強烈に掴み取った。