事故以前から、パンくんの将来を見据えた「引退計画」は進められていました。大人のチンパンジーになれば人間との直接的な触れ合いが危険になることは既定路線であり、もともと2013年春にショーを引退して繁殖生活へ移行することが決まっていたのです。しかし、2012年の事故によってそのスケジュールは前倒しされ、即座に舞台からの完全引退とテレビ番組のロケ終了が決定しました。
引退によって『天才!志村どうぶつ園』での共演は終わりましたが、番組内で「園長」として誰よりもパンくんに愛情を注いでいた志村けんさんとの絆が消えることはありませんでした。志村さんは引退後も熊本をプライベートで訪れ、ガラス越しにパンくんと再会を果たしています。志村さんがガラスの前に立つと、パンくんはすぐに認識して駆け寄り、口元を尖らせて懐かしそうに見つめ合う姿がメディアでも紹介されました。
また、赤ん坊の頃から親子のように二人三脚で歩んできた宮沢厚トレーナーとの信頼関係も続いています。事故後、宮沢さんは深甚なる反省とともに安全管理体制を全面的に刷新し、パンくんが人間社会の見世物ではなく、一頭のチンパンジーとして尊厳ある生涯を送れるよう環境整備に心血を注ぎました。2026年に志村けんさんが急逝した際も、カドリー・ドミニオンのスタッフや宮沢さんは、志村さんが遺してくれた動物への慈愛の心を胸に、パンくんを大切に見守り続ける決意を新たにしています。