スタジオでのレコーディングにまつわるエピソードも波乱に満ちている。緑川アコがこの曲を録音した際、彼女は単に楽譜通りに歌うのではなく、自らの人生の影や孤独をすべてマイクの前で吐き出すかのような壮絶なアプローチをとったという。一切の妥協を許さないマイクに向かう姿は、周囲のスタッフを圧倒させた。
夜の街で生きる女性の哀愁、旅路の果ての孤独。それらは単なるフィクションの物語ではなく、戦後日本の高度経済成長の陰で取り残された人々の心風景そのものだった。彼女が絞り出すような低音で歌い上げるフレーズ一つひとつには、聴く者の魂を揺さぶる不可思議な毒と薬が同居している。それこそが、何十年経っても色あせない「本物の歌力」の秘密である。