一般的な豚汁のレシピを開くと、かつお節や昆布でとった出汁をベースにし、最初に豚肉や根菜をごま油で炒める手順が目立ちます。しかし、土井善晴氏が教える豚汁は、そのどちらも行いません。一口すすった瞬間に誰もが驚く圧倒的な美味しさの秘密は、まさにこの「余計な手を加えない引き算の調理法」にあります。
土井氏は「豚肉とたっぷりの野菜から、十分すぎるほど上質な出汁が出る」と説きます。油で炒めて素材の表面をコーティングしてしまうのではなく、水からじっくりと煮出すことで、豚肉の脂の甘み、ごぼうや大根の滋味、こんにゃくの風味が互いに溶け合い、鍋の中で自然な乳化が起こります。人工的な旨味の重ね合わせではなく、素材同士の旨味が調和した純度の高いコクこそが、一口ごとの満足感を別次元へと押し上げているのです。