こうした科学的アプローチへの注目を加速させた背景には、土俵を牽引してきたトップ力士たちの死闘がある。膝の度重なる怪我と戦いながら土俵に立ち続けた第73代横綱・照ノ富士春雄や、爆発的な押し相撲で土俵を沸かせた元大関・貴景勝貴信らの存在だ。両者に共通するのは、一頭一頭の取組にかける過酷なまでの肉体的負荷である。
圧倒的な圧力で相手を押し込むスタイルや、土俵際での凄まじい耐えにおいては、歯や顎にかかる負担も並大抵ではない。極限状態の土俵で戦う彼らの姿は、後進の力士たちに対して「身体をいかに守り、持てるパフォーマンスを100%発揮するか」というプロフェッショナルとしての課題を突きつけた。怪我と背中合わせの土俵で生き抜くための知恵として、口腔ケアと衝撃吸収装置の導入が球界全体へと広がった背景には、こうした名力士たちの歴史的文脈が存在する。