洋画の吹き替えにおいて、特定の俳優に特定の声優が固定される関係を「フィックス」と呼びます。トム・ハンクスにおける最大のフィックス声優として名高いのが江原正士です。江原は20世紀フォックス(現・20世紀スタジオ)などのオフィシャルな配給において長年専属としてキャスティングされ、トム・ハンクス特有の軽妙な語り口、親しみやすさ、そして内に秘めた哀愁を見事に表現してきました。映画関係者の間では、トム・ハンクス本人に江原の吹き替え音源を聴かせた際、「自分の声にそっくりだ」と驚嘆し公認したという逸話も語り継がれています。
一方で、映画ファンに強烈な印象を残しているもう一人の巨頭が山寺宏一です。山寺は地上波の映画枠を中心に数多くのトム・ハンクス作品で吹き替えを担当。『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズのロバート・ラングドン教授役をはじめ、重厚で知的な壮年期の演技において圧倒的な支持を集めています。
江原正士が演じる「どこか憎めない愛嬌と温かみを持つ等身大の男」に対し、山寺宏一は「苦悩を抱える知性派やストイックなリーダー」のトーンにピタリとはまります。この2人の卓越した表現力こそが、日本におけるトム・ハンクス人気を長年支えてきた原動力です。