大相撲の本場所でマウスピースを着ける力士が目立つようになった最大の理由は、立ち合いにおける衝撃エネルギーの凄まじさにあります。力士同士が正面から衝突する瞬間には、およそ1トンを超える衝撃力が頭部や頚椎にかかると試算されています。これは軽自動車が時速40キロ前後で激突する衝撃に匹敵し、生身の体で受け止めるにはあまりに危険な負荷です。
頭部同士がダイレクトに激突した場合、脳が頭蓋骨の内側で激しく揺さぶられ、急性硬膜下血腫や深刻な脳震盪を引き起こすリスクが常に付きまといます。マウスピースを装着して上下の歯をしっかりと噛み締めることで、衝撃が顎関節を通じて頭蓋骨全体へと分散され、脳に伝わるダイレクトな揺れを大幅に緩和できます。頭部外傷による長期休場や引退の危機から力士生命を守るための防具として、現場での信頼が急速に高まりました。
さらに、自らの歯で口腔内の粘膜や舌を深く切ってしまう裂傷事故の防止、激しい衝撃による歯の破折(折れる・抜ける)を防ぐ役割も極めて大きいです。力士にとって歯は、重い相手を押し出す際の「力の源」であり、歯を失うことは力士生命の危機に直結します。自らの体を守り、長く土俵を務め上げるための自己防衛策として、若い世代を中心に普及が進んでいます。