本丸御殿の建築を語る上で欠かせないのが、武家建築の完成形とされる書院造の建築様式です。平安時代の寝殿造から発展し、畳の敷き詰め、床の間、違棚(ちがいだな)、付書院(つけしょいん)といった現代の和室の原型となる要素がこの時代に確立されました。
その格式を最も雄弁に物語るのが「表書院」や「大広間」に設けられた「上段の間」です。一段高く設えられた上段の間に城主が座り、家臣や使者は一段低い「下段の間」に平伏します。天井も上段の間のみ「折上格天井(おりあげごうてんじょう)」と呼ばれる最高格式の細工が施され、座る位置だけで絶対的な権力格差を視覚的に思い知らせる設計になっていました。
さらに空間を彩ったのが、幕府の御用絵師を務めた狩野派による障壁画です。金箔を惜しみなく使った金碧障壁画(きんぺきしょうへきが)には、獲物を威嚇する虎や天を突く巨松がダイナミックに描かれました。薄暗い御殿の室内で蝋燭の光に照らされ、黄金の壁がぼんやりと浮かび上がる光景は、訪れた者を圧倒する心理的演出としても機能していたのです。