「お祭りの屋台はなぜあんなに高いのか」「テキ屋は儲かるのか」という疑問は、祭りに足を運ぶ人々が常に抱く関心事です。業界関係者の証言や現場取材データを照らし合わせると、テキ屋ビジネスの核心には極めて合理的な「低原価・高回転」の利益構造が存在します。
代表的な品目の原価率は、固定店舗の飲食店(通常30〜35%前後)と比較して極めて低く抑えられています。 例えば、500円〜700円で販売される「かき氷」は、氷・シロップ・カップ・ストローを含めても1杯あたりの原価は30円〜50円程度(原価率約6〜8%)です。子供に人気の「わたあめ」に至っては、ザラメ砂糖とキャラクター袋を合わせても1本あたり40円〜60円前後で、販売価格600円〜800円に対する原価率は10%を大きく下回ります。
たこ焼きや焼きそばといった調理系でも原価率は15〜25%程度にとどまり、人件費や家賃が日割り計算になるため、好天に恵まれた大型の例大祭(3日間で数十万人規模の人出)であれば、単一の小規模ブースであっても3日間で150万〜300万円以上の売上を計上し、粗利益が100万円を超えるケースは決して珍しくありません。
実力のある親方クラスや、複数の屋台(坪)を展開する有力業者の場合、年間推定年収は800万〜1,500万円以上に達することもあります。ただし、この収益は天候リスク(雨天・台風による売上激減)や、閑散期(梅雨時や冬場の特定期間)の無収入リスクと表裏一体です。
また、出店を成立させるためには「庭場(にわば)」と呼ばれる縄張りルールの順守が必須です。各地域を統括する親方や組合に納める出店料(ショバ代・清掃協力費など)を適切に支払い、割り当てられた間口(通常は1間=約1.8m単位)を守ることで、同業者同士の無用な価格競争や場所取りの衝突を防いできたという背景があります。
こうした現場では、古くから独自の「隠語・符牒(ふちょう)」が飛び交います。現金のことを「オサツ」「タネ」、天候不良による売上不振や中止を「コロビ」、客寄せの仕掛け人を「サクラ」、商品を「ネタ」、地方巡業を「ドサ」と呼ぶなど、外部に商売の機密を漏らさず迅速に意思疎通を図る符牒文化が今も色濃く残されています。