この歴史的ドラマの主役でありながら、最も静かに、そして気高く振る舞ったのが松井秀喜でした。バットを肩に担いだまま一度もスイングすることなく、淡々と一塁へと歩を進める。悔しさや苛立ちを一切表情に出さず、ただ前を見据える高校生離れした威厳は、観る者の胸を強く打ちました。
ベンチで見守る星稜高等学校の山下智茂監督もまた、怒りを露わにすることなく選手たちを鼓舞し続けました。「相手がそこまで敬意を払ってくれているんだ。堂々と歩きなさい」。指揮官の教えを胸に、感情を殺してチームの勝利だけを信じた松井の人間力は、のちに読売ジャイアンツ、そしてニューヨーク・ヤンキースで世界の頂点に立つ大打者の原点となったのです。