物語の主人公・野上少尉は、死を美化する狂信的な軍人ではありません。彼はかつてロケット工学を学び、「音速の壁を突破する最初の男になりたい」という純粋無垢な航空への情熱を抱いていた青年でした。しかし、彼に与えられた機体は、夢を叶える研究機ではなく、一度乗れば二度と生きて帰れないロケット特攻機「桜花」でした。
出撃の日、山野少尉らが操縦する「一式陸攻」の腹下に吊るされた桜花の中で、野上少尉は静かに発進の瞬間を待ちます。米軍の激しい対空砲火と戦闘機の迎撃により、母機である一式陸攻は次々と被弾・炎上。死闘の末、母機が限界を迎える寸前、野上少尉は切り離しレバーを引き、ロケット点火のスイッチを押します。
猛烈な加速とともに音速の領域へと突入していく桜花。計器盤が未知の速度域を示すなか、野上少尉はついに米空母の甲板へと吸い込まれるように突入し、大爆発とともにその生涯を閉じます。敵空母を撃破したものの、そこにあるのは勝利の歓喜ではなく、余りにも重く切ない静寂でした。夢を兵器としてしか叶えられなかった青年の最期が、読者の胸に強烈な痛みを残します。