杉下右京の代名詞となったあの紅茶注ぎですが、実は初期の台本には「紅茶を注ぐ右京」としか書かれていませんでした。演出家からの細かな指示があったわけではなく、水谷豊本人のひらめきとアドリブによって誕生したスタイルです。
英国のスコットランドヤード(ロンドン警視庁)研修経験を持つエリート警察官という設定を踏まえ、水谷は「右京という風変わりで天才肌の男なら、紅茶ひとつ淹れる所作にも強烈な個性と美学があるはずだ」と分析しました。そこでリハーサルの際、ポットをスーッと高い位置まで持ち上げてカップに注ぎ入れたところ、現場の監督やスタッフから感嘆の声と笑いが沸き起こり、正式な演出として即座に採用されたという経緯があります。
紅茶を高い位置から注ぐ行為は、インドのチャイやモロッコのミントティーのように香りを立たせ空気を含ませる手法としても実在しますが、右京の場合は徹底した合理性と英国紳士然とした気品、そしてどこか人を食ったようなユーモアの表れでもあります。役柄を深く掘り下げた水谷の役者魂が生み出した、まさに奇跡のアイコンです。