ネット上のファンコミュニティやSNSでシガーキスが「尊い」「情緒が狂う」と絶賛される最大の理由は、「直接的な接触がないのに、どんなラブシーンよりも関係性の深さを雄弁に語る」という演出の美しさにあります。
日本のポップカルチャーにおいてシガーキスを一躍伝説たらしめた金字塔が、アニメ化もされた人気漫画『BLACK LAGOON(ブラック・ラグーン)』のワンシーンです。荒くれ者の街ロアナプラで、裏社会に生きる女ガンマンのレヴィと、元日本のサラリーマンであるロックが、車の後部座席で静かにタバコの火を分け合う場面は、今なお屈指の名シークエンスとして語り継がれています。
言葉による愛の告白や肉体的な接触を一切排し、暗がりの中で赤く光るタバコの火先と煙だけを通じて、二人が「同じ闇に生きる共犯者」となったことを示すこの演出は、視聴者に強烈な余韻を残しました。
近年の作品群でも、互いに本心を明かせないスパイ同士、生死を共にする戦友、あるいは禁忌の関係にある二人の結びつきを描く手段としてシガーキスが多用されています。「直接キスをしないからこそ、逆に二人の距離の近さが際立つ」という倒錯したエモーションが、受け手の想像力を刺激してやまないのです。