伊藤潤二の名を世界に轟かせた金字塔『富江』。何度殺されても再生し、男たちを狂気と殺意へ狂わせる魔性の美少女・富江の誕生には、作者自身のキャリアと独自の観察眼が強く結びついている。デビュー作である同作の執筆当時、伊藤は歯科技工士として働きながら夜間に創作を行っていた。技工士時代に培われた微細な造形感覚や人体構造への緻密な知識が、あの妖しくもグロテスクな肉体増殖の描写に直接生かされているという背景は実に興味深い。
一方、街全体が「うずまき」という幾何学的な概念に蝕まれていく大傑作『うずまき』。この作品の着想は「蚊が描く不気味な軌跡」や「古い長屋の螺旋階段」といった、身近な視覚パターンへの漠然とした違和感から芽生えたという。長年作品を世に送り出してきた「朝日新聞出版」の担当者とのやりとりの中でも、日常に潜む図形が人間の精神を解体していく恐怖をいかに紙面へ定着させるか、徹底的な試行錯誤が重ねられた。