十和田の夜を語る上で、名物の十和田バラ焼きを避けて通ることはできない。大量のタマネギと牛バラ肉を、醤油ベースの甘辛いタレで鉄板の上で炒め焼きにする。ジュウジュウと弾ける音、飴色に変化していくタマネギの艶、立ち上る甘い蒸気。カウンター越しに繰り広げられるその光景は、もはや一つのライブパフォーマンスに近い。
この大衆料理を全国区のブランドへと押し上げた立役者が、市民ボランティア集団「十和田バラ焼きゼミナール」であり、その舌鋒鋭くユーモラスな牽引役を務めてきた畑中宏之氏だ。かつてご当地グルメの祭典「B-1グランプリ」でゴールドグランプリを獲得した際、単なる料理のPRにとどまらず「まちおこしそのものを楽しむ」という哲学を全国に提示した。名店「司」をはじめとするバラ焼き専門店では、鉄板の育て方ひとつにも店主の哲学が宿る。肉から溶け出した脂を玉ねぎが吸い尽くし、タレがキャラメリゼされる絶妙な一瞬を見極めて口へ運ぶ。噛みしめるたびに溢れ出す濃厚な旨味は、冷えたビールや地酒の杯を加速させずにはいられない。