本作の核心に迫る上で欠かせないのが、綿密に構築されたボブ・ディラン 時代は変る 歌詞意味の重層性です。多くの論評が本作を公民権運動のアンセムとして片付けがちですが、ディラン本人が仕掛けたレトリックは、特定の政党や単一のイデオロギーをはるかに超越していました。
公式の歌詞テキストおよびタイムズ・アー・チェインジン 日本語訳を精読すると、全5連(スタンザ)で構成される詞の矛先が、社会を構成するあらゆる階層へ整然と向けられている事実が浮かび上がります。
冒頭の「Come gather 'round people wherever you roam(放浪する人々よ、どこにいようと集まるがいい)」という呼びかけに始まり、歌は第2連で「言葉でペンを走らせる作家や批評家」、第3連で「議場に座る上院議員や下院議員」、第4連で「国中の父親や母親」へと展開していきます。ディランが求めたのは個別事象への抗議運動ではなく、「今あなたの足元で水嵩(みずかさ)が増している」という冷徹な現実の直視でした。
タイムズ・アー・チェインジン 和訳において最も痛烈な響きを持つのが、旧世代に向けられた第4連の警告です。「理解できないのなら子供たちを批判するな / お前たちの道は急速に古びていく / 新しい道に手を貸せないなら、そこから退くがいい」。ここで描かれているのは、既得権益にしがみつく権力者や、過去の成功体験を押し付ける親世代に対する容赦ない引導でした。
そして最終連では、新約聖書の福音書に記された逆転劇「今一番の者が、後には最後になる」という黙示録的ビジョンが力強く提示されます。流行り廃りの激しいポップソングの中で、ディランの言葉が古びない最大の理由は、感情的な怒りではなく「自然の摂理としての変革」を冷徹に描き切った文学的透徹さにあります。