辻邦生の生涯を語る上で欠かせないのが、妻・辻佐保子(1930年–2011年)の存在です。彼女自身、ビザンティン美術や中世初期キリスト教美術研究の第一人者であり、名古屋大学名誉教授を務めた高名な美術史家でした。
二人の出会いは学生時代に遡り、互いの知性に惹かれ合って結婚。1950年代後半には夫妻でフランス・パリへ留学し、西欧の古典文化や歴史の深淵に触れました。この留学体験が、のちに辻邦生が著す数々の歴史小説や紀行文の確固たる礎となったことは有名です。
研究者として多忙を極める佐保子夫人と、机に向かい思索を深める作家の夫。二人は互いの仕事を邪魔することなく、対等なパートナーとして対話を重ね続けました。夫婦でありながら高次元の同志でもあった二人の絆は、世の一般的な家族観を超えた理想的な関係性として今も語り草となっています。