なぜ人は、特定の相手に対して理由のない強い不快感を抱くのか。その謎を解く鍵は、私たちの細胞の深層に刻まれた遺伝子情報にある。人間行動の根底を研究する進化心理学の領域では、この強力な拒絶反応が種を維持するための高度なリスク回避行動であると考えられている。
決定的な役割を果たしているのが、白血球の型を決めるHLA遺伝子(主要組織適合遺伝子複合体)だ。研究によると、人間は無意識のうちに自分とは異なる免疫型を持つ相手の匂いを好ましく感じ、逆に遺伝子型が似通っている相手の匂いに対しては猛烈な拒絶反応を示す。近親交配のリスクを避け、多様な病原体に対抗できる強い子孫を残すための生体プログラムが働いているのだ。言葉にする前の「直感」とされるものの正体は、実は遺伝子レベルの精緻な選別システムに他ならない。